公益通報者保護法について

◆「トレーサビリティー」で履歴確認
 食品に係る偽装事件が後を絶たちません。我々消費者は、マスコミ報道で初めて事件を知らされ、「またか・・」と思った直後、「また騙された」という裏切られた感を抱き、只々閉口するばかりです。とくに、食品は人間の生命に直結しているだけに、不安は増幅されるばかりです。全国の「地域ブランド(地域団体商標)」登録制度で、名産特長をより一層アピールできるようになったことに反し、産地偽装表示に拍車が掛かってしまったように思います。とくに、「牛肉BSE問題」以降は、食の安全・安心を求め、「食品におけるトレーサビリティー」※1)が注目され、現在は、多くの種類にわたって、ICタグ等でその食品の「トレーサビリティー」が表示され、確認できるようになりました。人に例えれば、個人履歴そのもの(個人情報)を開示していることに相当します。
◆内部告発による発覚
 発覚当初、経営者は、概して、産地や日付の誤表示だとマスコミに向かって主張していますが、関係当局による立入検査後には、産地偽装や消費期限等の日付改竄(かいざん)を故意にしていた事実を認めるという、お決まりのパターンです。こんな結果を誰もが予測できるようになっては、もう救いようがありません。食品のみならず、近年は、こうした企業不祥事が、所謂「内部告発」による通報を契機として発覚することが多くなりました。最近発生した食品日付改竄疑惑は、すでに退職した元従業員によるマスコミ(事業者外部)への通報で発覚し、立入検査による実態解明が待たれるところですが、そうした法令違反行為を労働者が通報した場合、解雇等の不利益な取扱いから保護し、事業者の法令順守経営を強化するために、「公益通報者保護法(平成16年6月18日法律第122号)」が施行(平成18年4月1日)されています。そこで、改めて、当保護法の要点について確認しておきたいと思います。
◆公益通報者保護法の要点
 本法において、(a)「公益通報者」とは、「公益を通報した労働者(同法第2条第2項)」で、その「労働者」は、「労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者(同法第2条)」と定義され、公務員を含む、正社員・パート・アルバイト等の労働者を要件としています。従って、会社役員等の立場の者は、当法の保護対象ではありません。(b)公益通報の対象要件としては、事業者内において、刑法、食品衛生法、証券取引法、日本農林規格(JAS)法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、個人情報保護法の7本の法律の他、その他政令で定めた406本の法律に規定される犯罪行為やその他の法令違反行為(最終的に罰則が規定されているもの)が生じ、または、まさに生じようとしている場合をいいます。(c)公益通報者の保護内容は、①公益通報をしたことを理由とする解雇の無効の他、②労働者派遣契約の解除の無効、③その他の不利益な取扱い(降格、減給、派遣労働者の交代を求めること等)の禁止です。(d)通報先別に、①事業者内部(事業者が設置した通報窓口または指定した通報窓口)の場合は、金品を要求したり、他人を貶(おとし)める等の不正の目的でないこと。②行政機関の場合は、不正の目的に加え、通報内容が真実であると信じる相当の理由があること。また、前掲事件の場合は次の③に該当しますが、③事業者外部※2)の場合は、不正の目的でないこと及び真実相当性を有することの他、一定の要件(内部通報では証拠隠滅の恐れがあること、書面による内部通報後20日以内に調査を行う旨の通知が無いこと、人の生命・身体への危害が発生する緊迫した危険があること等)を満たすことを保護要件として設定しています。
◆安易に解雇はできない
 前掲のとおり、同法では、公益通報者が公益通報をしたことを理由に事業者が解雇することは無効と規定(同法第3条)していますが、では、公益通報の要件を満たさない通報はどのように扱われるのかというと、従来の法体系の中で通報者の保護が判断されます。この点ついては、「解雇権濫用法理(日本食塩製造事件:昭和50年4月25日最高裁判例)」に基づき、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」※3)と明文化(労働基準法第18条の2)され、その適用を妨げるものではないと規定(公益通報者保護法第6条)しています。従って、公益通報の場合は勿論のこと、公益通報の要件を満たさない通報の場合でも、公益通報を事由として安易に解雇することはできないのです。但し、現在、その「労基法第18条の2」は、「労働契約法(平成19年12月5日法律第128号)」の施行(平成20年3月1日)により、同法第16条に移行されています。このように、公益通報者の立場は保護されていますが、他人の正当な利益(名誉、信用、プライバシー等)を侵害しないように配慮することが必要です。尚、公益通報者保護法は、施行後5年(平成23年)を目途に見直しされる予定です。
※1)英語の「Trace(追跡する。明らかにする)」と「Ability(できること。能力)」の複合語。その食品の産地、種別、製造過程、流通経路等の履歴を確認できるシステム。
※2)報道機関や消費者団体等、被害の発生や拡大を防止するために必要と認められる者。
※3)整理解雇する場合、人員削減の必要性等の4要件が必要(昭和54年10月29日東京高裁判例)。
参考:「公益通報者保護法」内閣府国民生活局資料。「改正労働基準法の概要」厚生労働省資料。「わかりやすい労働契約法(野川忍著)」(株)商事法務。各法律条文。