裁判員の参加する刑事裁判の対象事件とは?

◆「裁判員制度」スタートは目前
 いよいよ「裁判員制度」スタートまで、あと1週間を切りました。これまで当ブログでは裁判員制度に係わる記事※1)を掲載してきましたのでご参照いただければ幸甚です。メディア報道による最近の世論調査結果では「裁判員制度」に対する我々国民の意識は以前より高まってきたようですので、今回は最近のニュース報道された事件を題材として、「裁判員の刑事裁判」に係わる観点から一考してみます。
◆「公然わいせつ罪」は対象外
 現在は専ら「新型インフルエンザ」の世界的蔓延(現在は「フェーズ5」)報道の毎日ですから、《過日の深夜に都内公園で泥酔・全裸となった男性タレントが「公然わいせつ罪(刑法第174条)」で逮捕された(4/23)》という事件は、随分過去の話のように感じます。この事態は人が全く来ない山奥等で起きた話ならともかく、大都心の公園での出来事ですから、人が見ているか否かを問わず、条文の「公然とわいせつな行為をした者」に該当することになります。ただ、今さらながら、ここで当該男性タレントの心配や弁護等を展開するつもりはありません。
 当該事件は、住民の通報で現場に駆けつけた警察官に対して「裸だから、何が悪い」等と本人が抵抗したとのことですが、本人は泥酔状態だった為、警察官に抵抗したという意識は皆無だったのではないかと邪推します。警察官への抵抗が「公務執行妨害罪(刑法第95条第1項)」に該当したか否かは別として、深夜の公園で奇声を張り上げて泥酔かつ全裸状態にあった訳ですから、周辺住民に対する迷惑も考慮すれば、逮捕は避けられなかったものと思います。但し、この「公然わいせつ罪」は裁判員が係る刑事裁判の対象外です。
◆「保護責任者遺棄致死罪」は裁判員刑事裁判対象の一つ
 私見としては、先ず「どうして泥酔状態の彼を深夜の公園に放置したのだろうか」との疑問が湧きました。当夜の外気温は15度くらいだったようですが、冬季ならば凍死も危惧されることになります。これについては、本人が2軒目に訪れた居酒屋の店長と女性従業員が一緒に飲食していた経緯があり、本人の泥酔状態は把握されていました。そして、本人の住居である高層マンションまで当該女性従業員がタクシーで送ったとの事実関係ですから、全く意識の無い者を屋外に放置したことには該当せず、この点では問題ありません。
 しかし、例えば、前後不覚の泥酔状態になった者を路上等に放置した為、本人が死亡してしまった場合には「保護責任者遺棄致死罪」となります。即ち、万一、泥酔状態で倒れた者を放置したことが直接の原因で死亡してしまった場合は、「傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。」との規定(刑法第219条)により処罰を受けることになります。たとえ死亡しなかった場合でも、刑法は「老年者、幼年者、身体障害者又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、1年以下の懲役に処する。」と規定(同法第218条 遺棄罪)していますので、前記のような要扶助者と行動を同じくするような場合には、当然良心を持って臨まなければならないことに留意してください。尚、当該事件について、日経・朝日・読売よみくらべサイト「新s(あらたにす)」のコラムに、新聞案内人のメンバーである西島雄造氏(ジャーナリスト、元読売新聞芸能部長)の記事:「世にお騒がせの種は尽きまじ」が掲載(4/28日付)されていますのでご紹介致します。
◆「危険運転致死罪」適用となれば裁判員刑事裁判の対象
 このように、泥酔で本人の意識が飛んでしまうという現象について、最近のニュース報道例を挙げると、大都市の某警察副署長が「道路交通法違反(酒気帯び運転)」容疑で摘発(5/5)されたという事件です。この事件は、本人が勤務している警察署の駐車場で私有車のハンドルを何回も切り返して駐車していた為、たまたま部下の同署員に気づかれて発覚したという経緯で、全く言語道断にほかありません。当該副署長が《「なぜこんなことをしたのか、分からない」》と話したのは、前掲事件とは全く無関係ですが、当該男性タレントが謝罪会見(4/24)で《「なぜ裸になったのか覚えていない」》と語ったのと全く同じです。泥酔状態に陥ると記憶の一部が無くなる場合があるということを改めて肝に銘じて欲しいものです。
 この警察副署長の場合は、酔っていたので飲食店主に自宅(警察官舎)まで送ってもらっていたという事実に基づき、店主は責任を問われることは無いと判断します。なぜなら、警察副署長が自分の意思で酒気帯び運転をしたのは、自宅に送られた後の過ちだからです。この場合の道交法違反は裁判員の刑事裁判の対象ではありませんが、万一、酒気帯び運転等で人を死亡させた場合には「危険運転致死罪(刑法第208条の2)」※2)が適用され、最長20年の懲役を科せられることになり、その対象となります。蛇足ながら、当該警察副署長の私有車の駐車場が、常時、警察署を使用していたか否かは不明であり、私が新聞記者なら追及する点です。
◆主に強盗致傷や殺人の「重大犯罪事件」が対象
 この2つの事例は一部共通点がありましたので、仮定事例を含めて刑法的観点から述べましたが、これからスタートする「裁判員の参加する刑事裁判」で取り扱われる事件は、当ブログ過去記事※1)に記載のとおり、主に強盗致傷や殺人の「重大犯罪事件」の審判に係ることになります。残念ながら、殺人等の重大犯罪事件は日常茶飯事に発生していますので、犯罪の事実関係に関心を持つことで刑法に係る見方も少しずつ深まるのではないかと思います。一裁判員として臨まれるにあたり、これまで刑法に関心が無かった人も、日常のメディア報道等を通じて“事件の実態を見極める”という観点で捉えられてみてはいかがでしょうか。
※1)◆当ブログ記事(08/7/25日付):「あなたは『裁判員』辞退希望派?」。◆同記事(08/12/3日付):「『裁判員候補者』の選任通知を受けられた皆様へ」。◆同記事(09/2/18日付):「裁判員候補者の皆様へ」。
※2)「平成13年12月5日法律第138号」として改正成立。同年12月25日施行。
参考:刑法(明治40年4月24日法律第45号。最終改正:平成19年5月23日法律第54号)。警視庁公表資料。日経・朝日・読売よみくらべサイト「新s(あらたにす)」及び各紙記事。