文化的価値の伝承を考える

◆解体工事中止を受けた「旧東京中央郵便局」

 旧東京中央郵便局の再開発計画が進行する中、いや正確に言うならば、当該建物の解体工事が進行する中で、現総務相が「文介財を守った上で開発すべきだ」と異論を唱えた為、ニュース報道となったのは皆様ご承知のとおりです。ここで所謂「郵政民営化」にまで遡及して述べるつもりは毛頭ありませんが、民営化された日本郵政の社長が「登録文化財を望んでいるわけではない(3/3定例会見)」と発言されたのは、心情的に理解できます。改築計画も無く突然に解体工事を開始した訳ではないのですから、日本郵政側からすると、俗的表現で恐縮ですが、“もっと早く言ってよ!”というのが本音ではないかと個人的に憶測したところです。

◆丸の内は“東京・日本の玄関”

 誤解のないよう予めお断りしますが、私個人は無闇に伝統を軽視する者でも懐古主義者でもありません。旧東京中央郵便局は個人的によく利用しましたが、昭和8年建造の“旧い建造物”であり、東京駅丸の内南口正面に位置している点から“東京の玄関”の一つと言えます。かつて丸の内一帯は所謂“三菱ヶ原”と呼ばれたエリアで、旧財閥系列ビル群の建て替えは建物低層階部分の修復等を施し、現在でも昔の面影を残しています。すでにふた昔くらい前の話になりますが、私が「丸の内再開発研究会(丸の内マンハッタン計画)」に参加した時、都市防災論や国土及び都市計画の重鎮である伊藤滋教授から、《丸の内はもはや私的空間でなく、東京の玄関であり、日本の玄関である。風の道も必要である》等々のお話を賜った記憶があります。

◆歴史的価値をどう測るか

 とんだ懐古話になってしまいましたが、日経・朝日・読売よみくらべサイト「新s(あらたにす)」の昨年のコラム(08/10/17日付)で、同サイト「新聞案内人」メンバーである森まゆみ氏(作家・編集者)は、《丸ビルは私企業の持ち物であるが、郵便局は駅と同様、公共性の高いものであるし、東京の駅前の顔である。東京駅もいまは当初の形に復元中》等と述べておられます。そして旧東京中央郵便局については、《これだけ歴史的価値のはっきりしているのを壊すのは理がない。郵政民営化とはなんだったのかが問われることになる。今あるものを大事にする、というのが環境時代の世界戦略であろう。》と主張されています。詳細は前記の当該サイトをご参照ください。
 当ブログの立場からは、この旧東京中央郵便局の文化的価値を論ずる以前に、「工事只中の段階で解体中止指示を受けるのは如何なものか」という見地です。丁度、当ブログ記事の作成途中で、国と日本郵政の話合いの結果、両者は歩み寄り(3/10)、建物の保存部分を当初設計から約2倍に拡大するよう変更することで当議論の決着(3/13)を見ましたので、まずは一件落着とします。但し、当該建造物に限らず、“単に旧いというだけで伝統が有る”と断言できるものではないと思います。

◆無料で一般公開中の「明治生命館(重要文化財)」の事例

 今後は、旧東京中央郵便局が「登録有形文化財」として認定されるか否かが焦点になります。ここで、「登録有形文化財(建造物)」※1)の現況を見ると全国に7,407件(3/1現在)あり、官公庁舎に絞ると138件で、例えば、「旧文部省庁舎(昭和7年)」が挙げられます。また、前者とは分類が異なる「国宝・重要文化財(建造物)」を見ると、東京都内所在の物は67件あります。
 そこで、私企業になりますが、「明治生命保険相互会社本社本館(重要文化財指定は旧社名で認定)」の事例をご紹介します。「明治生命館(略称)」は昭和9年の竣工で、旧東京中央郵便局の1年後に建造されました。GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)に接収され、対日理事会(ACJ)の会場として使用された歴史を経てきました。建物自体は欧風コリント形式の複数の円錐柱やガス燈の外観を擁し、内部はアンモナイト化石が入った大理石の床や階段の設えです。「指定の日曜日に一般公開」されており、店頭営業室(1F)や前記の対日理事会会場となった会議室(2F)をはじめ執務室や応接室等、誰でも自由に無料で見学でき、史資料のデジタル閲覧サービスも利用できます。
 本館は皇居「二重橋」前、東京駅から徒歩約7分の交通至便な立地で、一般見学者数が1日で数百人に上る来館日もあるのです。まさに文化的価値伝承の一躍を担っていると捉えますがどうでしょうか。改築工事再開となる「旧東京中央郵便局」を眺めながら丸の内エリアを散策すれば、“新たな文化”との出会いがあるかもしれません。
※1)上位(300件以上)都道府県名&件数:(1)大阪府507、(2)兵庫県380、(3)長野県343、(4)京都府330、(5)愛知県313、(6)新潟県308、(7)香川県303。東京都は「第11位:234件」。
参考:文化庁公表資料。日経・朝日・読売よみくらべサイト「新s」。 明治安田生命保険相互会社公表資料。