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2010.05.21

★“上海万博” 「知的財産権」侵害に対処するわが国の現状について

◆中国に草木もなびく

 “より良い都市、より良い生活(Better City, Better Life)”を主テーマに、過去最大規模(国・地域及び国際機関は最多の246)の参加者の下、途上国初の『中国2010年上海万国博覧会』が今月1日に開幕しました。万博開幕時には、「北京五輪」開幕式の約8万発を超える10万発以上の最新低炭素花火等が打ち上げられ、入場者数は過去最多の「大阪万博(6,421万人)」を超える「7,000万人」を誘致する等の目標が掲げられ、あらゆる記録更新を目指しています。経済成長と共に、まさに“中国に草木もなびく”と言ったところでしょうか。

◆開幕前から“盗作疑惑”続出

 ところが、「上海万博」開幕直前になって、日本のヒット曲(「そのままの君でいて」:岡本真夜)の使用許諾を得た(ア)「万博PRソング」の盗作疑惑を契機に、米国のキャラクター「ガンビー(Gumby):1953年制作」を模倣したような公式マスコットキャラクター(イ)「海宝(ハイバオ)」や、セビリア万博(92年)の「日本館」に酷似疑惑のある“東方の冠”と称する主パビリオン(ウ)「中国館」の外観デザインに至るまで、一連が盗作疑惑として問題視されているのはご承知のとおりです。

◆“真贋逆転”の「地域ブランド」

 現在、日本国内は、宮崎県内で発生した“家畜伝染病(口蹄疫:コウテイエキ)問題”の渦中で一大事ですが、これまで国外(とりわけ中国・韓国)においては“偽ブランド”が国際問題となり、過去の当ブログ記事(08/7/4日付):『「地域ブランド」は何をもたらすか』で「知的財産権」を取り上げました。現状は、日本側が中国商標局に「地域ブランド:松阪牛※1)、松阪肉」の登録申請に係る再審申立をした(5/7:松阪市)という有様で、“真贋逆転”には、ただ閉口するばかりです。この度の「上海万博」は国を挙げての歴史的一大行事ですので、万一、盗作疑惑が真実であったならば、今さら何をか言わんやです。

◆「著作人格権」は譲渡できない

 ここで、わが国における「知的財産権」について、少しおさらいしておきます。「知的財産権」は、(a)著作権、(b)産業財産権(工業所有権:特許権、実用新案権、意匠権、商標権)、(c)種苗法に分類されています。著作権が産業財産権と異なる点は、産業財産権は登録しなければ権利が発生しないのに対し、著作権は権利を得るための手続きは全く必要ないという点です。著作権法※2)では、著作物とは《思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。》と規定(同法第2条第1項第1号)されており、「音楽の著作物(楽曲及び楽曲を伴う歌詞)」等、9項目の著作物を例示(同法第10条)しています。勿論、これらはあくまでも法規定内の例示であり、限定されるものではありません。
 即ち、著作物を創作すると、「著作者人格権」と「著作財産権」が自動的に発生する(同法第17条)ので、行政庁への登録手続きは必要なく権利が発生するのです。但し、著作人格権は著作者本人に専属し、他人に譲渡することができないと規定されていますので、前掲の「万博PRソング」は急遽、使用許諾を得たという経緯になった訳ですが、実際の万博開幕時には、当該曲(ア)は使用されませんでした。

◆「意匠権」も保護される
 また、前掲の盗作疑惑の(イ)「海宝」及び(ウ)「中国館」については、「意匠権」が係わっています。「意匠」とは工業製品等の「物品のデザイン(外観)」を指し、建築構造物も含まれます。意匠法※3)は、《意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。ただし、その意匠権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。》と「意匠権の効力」を規定(同法第23条)しています。従って、意匠の権利者は、第三者が許可なく、登録意匠を具現化した製品を製造、使用、譲渡、輸入等することを禁止する権利を有し、「意匠権」は保護されなければならないのです。

◆現在進行中の『ACTA』構想
 このような国際的現状を踏まえ、わが国は、小泉元総理が《模倣品・海賊版防止のための法的枠組策定の必要性を提唱(2005年G8グレインイーグルス・サミット:英)》して以降、『模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement:ACTA)』構想について、今年の第7回関係国会合(1月開催:墨)※4)で、《2010年末までにACTAを妥結させる意図を再確認》したという経緯があります。
 一方、わが国とアジア太平洋地域における経済的相互依存を踏まえ、「日本貿易振興機構(JETRO)」は、特許庁から委託(97年度)を受け、《「海外知的財産侵害対策強化事業」として、海外における我が国企業の知的財産保護に関する各種事業を実施》しています。当該機構は、委託事業の一環として『模倣対策マニュアル 中国編 2010年3月』を作成し、例えば、「香港商号問題」については、《中国各地で、世界的に著名な商標が含まれる企業名称が無断で第三者によって登記される問題のことです。》等の基本用語の解説をはじめ、各権利取得から模倣品・刑事対応、民事訴訟等に至るまで、わかり易く解説されていますのでご紹介しておきます。

◆今月策定される『知的財産推進計画2010』
 そして、わが国は「知的財産立国」を実現するため、2003年に『知的財産推進計画』の初策定(7月)以降、政府・知的財産戦略本部(03/4/1発足)が、少なくとも毎年1回改定しなければならない計画と規定(知的財産基本法第23条第1項及び第6項)していることに基づき、今年も『知的財産推進計画2010』の骨子が了承(3/30:同本部長・鳩山由紀夫首相)されたという段階で、この《5月を目途に策定》される予定です。因みに、当該『計画(骨子)』では、重点施策のひとつである「知的財産の産業横断的な強化策」の中で、《2010年中に模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の交渉を妥結し、締結後に加盟国を拡大する》と明記され、《世界大に保護の輪を広げる》としています。

◆“実質GDP成長率8.7%(09年)”の中国
 わが国内では、東京都の「推計総人口」が初めて1,300万人を突破(1,301万279人:10/4/1現在)したところですが、史上最大規模の万博開催地「上海市」の都市規模は、「面積」は東京都の丁度3倍、「人口」は北京市を抜いて約1,921.3万人(常住人口総数:09年末時点)で、東京都の約1.5倍を擁する中国最大の商工業都市に発展しています。
 世界同時金融不況に遭遇した日本の「実質GDP成長率」が「▲5.2%(09年):▲はマイナス。」であったのに対し、中国は2003年から10%台が5年間続き、昨年は「8.7%」という結果※5)でした。中国は日本の隣国とは言え、海を隔てた近くて遠い国と言われてきましたが、人口比で日本の約10倍規模の中国マーケットは、今や世界的ターゲットとなり、日本がこれまで辿って来た高度経済成長への道を、技術革新と共に“走っている”ものと思われます。

◆“戦略的互恵関係”に基づく共存共栄を
 中国による「知的財産権」侵害については、前掲の『ACTA』等の対策による世界的な働きかけで理解を得、わが国が教育的リーダーシップを発揮していくことが肝要と思います。と言うのも、中国人の生活マナーをはじめ、盗作等の文化レベルを日本人が嘲笑している間に、中国は日本を追い抜き、名実共に“東方の冠”として成長・発展して行ってしまうパワーを秘めていると思うからです。従って、中国の盗作疑惑等は“他山の石”とし、また、決して“上から目線”ではなく、「知的財産権」侵害においても単に敵視するのではなく、所謂“戦略的互恵関係”の態勢に臨み、“共存共栄”していくのが賢明な道ではないかと考えます。
※1)「松坂牛(▲マツザカギュウ)」は誤字誤読、「松阪牛(マツサカウシ)」が正当。産地の「松阪市(マツサカシ)」も同じ。
※2)昭和45年5月6日法律第48号。最終改正:平成21年7月10日法律第73号。
※3)昭和34年4月13日法律第125号。最終改正:平成20年4月18日法律第16号。
※4)ACTA交渉の関係国会合は、第8回(2010/4:新西蘭)は開催済で、第9回(2010/6:瑞西)を予定。
※5)『主要経済指標(日本及び海外)』2010年5月17日付:外務省経済局公表資料。
参考:首相官邸公表資料。内閣官房知的財産戦略推本部公表資料。外務省経済局公表資料。経済産業省通商政策局公表資料。総務省公表資料。独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)在外企業支援・知的財産部公表資料。東京都総務局公表資料。『人民網日本語版』等。