労働者派遣とコンプライアンス

2008年始早々、国内大手の日雇い派遣会社に対して、厚生労働省から労働者派遣法に基づき、当会社の事業所を対象に長期の事業停止命令が出されました。労働者派遣法で禁止された業務への派遣や二重派遣等の違法行為が繰り返し行われていたという事実が原因で、悪質と判断されたことに依ります。

本来、労働者派遣事業では、「①港湾運送業務 ②建設業務 ③警備業務 ④病院等における医療関係の業務(一部、紹介予定派遣をする場合等を除く) ⑤所謂「士」業務(一部例外有り)」が禁止(労働者派遣法第4条等)されており、また、二重派遣は、派遣元から労働者派遣を受けた労働者を、派遣先が更に第三者の指揮命令の下に労働に従事させる点で労働者供給事業に該当するため禁止(職業安定法第44条※a)されています。

 こうした不祥事の発生は、昨年来の「偽装年」というイメージを引き摺った感があり、単に経営者の辞任や、内部管理体制強化の対応だけで解決される問題ではありません。まさに、一企業の問題に留まらず、コンプライアンス(法令順守)に基づく企業経営態勢が問われています。

 前述の禁止業務への派遣及び二重派遣は一事例ですが、労働者派遣においては、近年、「偽装請負」にもスポットが当たっています。請負は、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(民法第632条)」という性質を有するもので、注文主と労働者との間には指揮命令関係が生じないことが前提となっています。

従って、派遣と請負の判断を明確にするために、所謂「区分基準(「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準:昭和61年4月17日労働省告示第37号」)※b)」が定められています。これは請負充足の10要件で、請負事業と判断されるためには、すべてこの基準を満たさなければ、労働者派遣事業に該当する可能性があると判断されることになります。

 また、本来、労働者派遣事業を実施するためには、派遣元側が、一般労働者派遣事業の許可や特定労働者派遣事業の届出(労働者派遣法第2条)をしていなければならないので、これらの手続きをしていない場合は、当然論外です。ですから、正当な派遣を前提として、偽装請負が派遣先の実情に起因すると仮定した場合、派遣対象業務の限定や派遣受入期間の制限※c)、ひいては、安全配慮義務等の法的負担を避けるという観点から、派遣先が注文主の立場をとりたい為に請負を選択するという解釈(外井浩志弁護士:後掲参考)もできます。

 いずれにしても、偽装請負に至った要因先の特定は別として、請負により行われる事業を行っている事業主であると判断されるためには、少なくとも、「派遣と請負の区分基準に関する自主点検項目(14項目)」に合致している事実が必要で、派遣・請負共に、今後はコンプライアンスに基づく適正な運用が行われることがより一層求められます。

※a)職業安定法

第44条 何人も次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行うものから供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

第45条 労働組合等が、厚生労働大臣の許可を受けた場合は、無料の労働者供給事業を行うことができる。

※b)「人事総務部」ブログのLINK集(行政)ご参照。

※c)「人事総務部」ブログエントリー「製造業界における2009年問題」ご参照。

参考:「労働者派遣事業関係業務取扱要領(改正2008年2月28日)」厚生労働省。「派遣元責任者必携2007年版Ⅱ労働者派遣法」日本人材派遣協会編著。「偽装請負―労働者派遣と請負の知識―(外井浩志著)」労働調査会。「新ルール対応 非正社員雇用の重要ポイントがよくわかる本(多田智子著)」中経出版。日本経済新聞掲載記事等。